コメント



トニー・レインズ

この映画のリズム、形式、グッときた!

ウルリッヒ&エリカ・グレゴール

松林要樹 監督の『祭の馬』は、今年の東京フィルメックスで最も感動的で傑出した作品のひとつでした。福島の大災害と人々の運命を描くだけでなく、私たちを馬たちの 世界へと、もっと言えば動物たちの世界へといざなってくれます。彼らの感情、反応、内面表現、そして自由が許されたときに見せるよろこびの表情を、彼らの 美しさを見せてくれるのです。動物に対する私たちの責任について思い起こさせてくれます。ある意味では私たち自身について考えさせられるのです。あの馬の 瞳のクロースアップは、はるか遠くそして実はごく近くにある、もう一つの世界へのまなざしを明らかにするものなのです。

金平茂紀

馬好きなら見ろ!
スクリーンいっぱいに映し出される馬のでっかいちんちんを見ろ!
スクリーンいっぱいに映し出される馬のでっかいおめめを見ろ!
競馬、乗馬、食用、屠殺、餓死、烙印、そして祭。
馬のすべてを見ろ!

原一男

馬の大きな瞳は、何故、いつも悲しげなんだろう?
とりわけ『祭の馬』の主人公のミラーズクエストの瞳は、悲しげだ。
放射能を浴びたせいで食用に屠畜されることは免れたものの、
警戒区域内=デッド・ゾーンで余生を送らざるを得ない己の運命のみならず、人の運命の行く末も、彼には、全てが見えてるに違いない。

金平茂紀

僕らが馬を映画でみているのではない。
原発事故で被災した馬たちが僕ら人間をじっとみつづけているのだ。

佐々木敦

あの『相馬看花』の第二部が、まさかこんな映画になるなんて?!
主人公は馬、その名はミラーズクエスト。
名前の通り、彼のつぶらな瞳は、鏡のごとく被災地の光景を映し出す。
松林監督は前作に続いて、相馬の土地と歴史をカメラによって慈し
み、このチャーミングな問題提起映画を撮り上げた。

三浦哲哉

腫れもの。わだかまり、留まるもの。その異様さで目を引きつけたり、背けさせたりするもの。傷と治癒作用とが拮抗する場所。『祭の馬』は腫れものを抱えた一頭の美しい馬の映画だ。一度見たら強く心に食い込んで、忘れられなくなるだろう。

結城秀勇

原発とは直接関係のないペニスの傷を建屋から立ち昇るキノコ雲そっくりに変形させたミラーズクエストの姿は、ちっとも"under control"なんかじゃない状況下を生きる私たちに、損失を埋め合わせするのでも代償となるようなものを手に入れるのでもなく、取り換えのきかない自らの傷とともに生きる方法についてのアイディアを与えてくれる。

森 達也

この映画のテーマは原発や放射能ではない。
確かに大事な要素だ。でも言い換えれば要素でしかない。
最大のテーマは「生きる切なさ」だ。
馬もつらい。人もつらい。でも生きる。
それぞれの業を背負いながら、歯を食いしばって生きる。
観終えて思う。命はすごい。

相澤虎之助

この美しい映画には、はるか昔から動物の祭りを奪った
止むなき人間の業が見える。
それでも馬は一瞬にしてアジアの大草原を駆け巡る。
映画を観たあと、何故か私は吐いてしまった。
よせばいいのに馬と一緒 にダンスしたからかもしれない。

熊谷新子

松林監督の人なつっこさ、優しさ、おかしみが、相馬の厳しい状況の中から、ふとにじみ出てくるようだった。

ミラーズクエスト、その体躯の衰え、肌つや、たてがみ、まつげ、祭の準備、なにより草原を駆ける姿、雪原でいななく姿、人間の都合に巻き込まれながらも、人間の状況とはちがう次元で生きる瞬間の馬の姿がちらちら映り、とても美しかった。

富田克也

贖罪とはヒエラルキーの上に成り立つものでしかないと、この映画は語っている。
そして、馬の眼は人類の当たり前で了解済みの歴史を反射していた。
見つめているのではなく。それは虚空だった。

岡田秀則

『祭の馬』では、もの言わぬ馬たちに震災が刻印した身体や表情の変化を、私たちが感じ取れるほどにキャメラが彼らに肉薄している。殺処分は逃れたが避難所に 閉じ込められた馬たちが、相馬野馬追というハレの舞台に再び現れるまでの春夏秋冬、そして春、夏へ。美しさを取り戻す馬もいれば、震災後の移動制限のため、周囲の人々の無念の中で衰えてゆく馬もいる。このあたりの、時の流れとともに綴られる馬の描写は、 山本嘉次郎の名作『馬』さえ思い浮かぶ。

小長谷有紀

見よ、この馬の生きざまを。
被災をのりこえ、つかのま、草原に放たれたときの、そのうれしそうな顔を。
何度もカメラに向かって馬が語りかけているではないか。
走るために生まれた生き物に、私たちが与えた試練は、人類の業火そのものである。